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  法科大学院民法演習課題

 

     法科大学院制度発足に先立ち、私は、「ケースブック 要件事実・事実認定」(有斐閣)という本の編集に関わりました。また、2004年の発足以降、民法財産法の講義、民法演習・民事法癒合演習・民事法特別演習という演習を担当し、そのためにたくさんの学習課題、定期試験問題を作ってきました。ここには、わたしが、判決例を素材とするなどして、創作した「民法演習課題」をお示ししていきたいと思います。


                                                                                                                                                                                                                                           

【課題1】

(20**年度民事法特別演習A 定期試験問題)

下記の【事実関係】を読み、下記の【設問】に答えなさい。

 

 【事実関係】

(1)Xは、Yとの間で、平成24127日,不動産仲介業者Aの仲介により、甲建物とその敷地である乙土地とを8680万円で買う旨の売買契約を締結し、解約手付金250万円を支払った。平成221130日に新築された甲建物は、2階建ての10室(101号〜105号室、201号ないし205号室)からなる、共同住宅である。各部屋は広さ20平米のワンルームであるが、2階の5室についてはロフト付きである。この売買契約においては、Aにより作成された契約書文案により締結されたものであって、「本物件の売買対象面積は契約書表記の面積とする」、公租公課の分担につき「引渡日の前日までを売主、引渡後の日以降の分については買主の負担とする」、契約違反の解除につき「不履行した者に対して催告のうえ本契約を解除し違約金として売買代金の20%相当額を請求できる」などのほか、「引き渡し前に火災、地震等の不可抗力により滅失又は毀損した場合は、その損失は売主の負担とする」との約定がなされていた。また、甲建物に関する賃借人らとの賃貸借契約については、Xが、所有権移転と同時に、Yから敷金の引渡しを受けて賃貸人たる地位を承継することとなっていた。また、上記契約条項については、読み上げがなされた程度であって、XYとの間で特段のやりとりのないまま、契約成立に至っている。そして、Xは、売買決済日とされた平成24年2月18日に、Yに対し、残代金8430万円を支払い、Yは、Xに対し、同日、本件土地建物を引き渡すとともに所有権移転登記手続をした。

(2)ところが、甲建物の2階の外付け階段に近い角部屋201号室(以下「本件居室」という。)を、平成23年1月18日から借りていた賃借人Bは、平成24年2月13日午前0時30分ころ、本件居室内において、物干し用ロープをロフトの梯子にかけて首を吊り、縊死した。本件自殺については、Aによって売買決済日である平成24年2月18日に発見された後、同月19日にYに、同月21日にXにそれぞれ知らされた。本件居室でのこの自殺は、外付け階段を使用するためその前を行き来している甲建物2階の賃借人の関心を呼んでいる。 

(3)なお、Yは、平成23年1月18日、社会人になって間もないBに対し、本件居室を住居目的、賃貸借期間同年2月22日から平成25年2月21日、賃料月額7万円、共益費等月額2000円、敷金7万円との約定にて賃貸したものであって、Zは、同日、BYに対する本件賃貸借契約上の債務につき書面にて連帯保証している。Zは、Bの母であり、Bが学生であったときに父が病死して後、親一人子一人の関係にある。

(4)その後、Xは、平成24年8月31日、新賃借人Cに対し、本件居室を住居目的、賃貸借期間同日から平成26年8月30日、賃料月額4万2000円との約定にて賃貸した。Xは、Cが平成25年8月27日ころに本件居室を退去した後、本件居室の賃借人を賃料月額5万8000円、共益費等月額2000円との条件にて募集したが入居者はまだない、という事実が認められる。

(5)Xは、Zから、本件自殺に関わり、迷惑料として示された50万円をひとまず預かると受領したほか、この賃貸借契約により引き継いだ敷金7万円についても返還を免れていることが認められる。Xは、これら金員について、本件居室の破損や汚染に対する費用(居室クリーニング代金、供養費用、梯子修繕費用)などに充てたと言っている。

 

 【設問】                                                                                                         (配点60点)

 問1 Xは、Yに対して、Bの自殺による本件土地建物の価値減少額(下記「資料」参照)の支払いを求めたい。

1)Xにおいて、どのような主張をすることが考えられるか。

  2)これに対して、Yはどのような反論をすることが考えられるか。

  3)Xの請求は、認められるであろうか。

 

問2 問1の結論に関わらせて、                                                                 (配点30点 なお、10点は平常点)

1)XまたはYは、Zに対していかなる請求をすることが考えられるか。

2)これに対して、Zは、いかなる反論をすることが考えられるか。

3)XまたはYの請求は、認められるであろうか。

 

【資料―Xが依頼した不動産鑑定士の「鑑定意見」概要】

本件売買契約の代金の内訳として、甲建物の代金は3490万円、乙土地の代金は5190万円である。甲建物について、本件自殺による有効需要の減少は本件居室に限定され、本件居室の甲建物に対する効用割合を10.71パーセント、減価率を50パーセントとして減価は算出される。乙土地について、甲建物の耐用年数である24年経過後は減価がなくなるものとして年率5パーセントによる複利現価を認められる。そうすると、全体の減価率は4.36パーセントとなるから、本件自殺による甲建物、乙土地の交換価値減少額は381万円である。

 

【課題2】

 次の事案を読み、下記の問題(1)、(2)、(3)について答えなさい。

 【事案】 

(1)就職情報提供会社であるYの社長秘書であるAは、平成216月から平成223月にかけて、Yの注文と称し、Yに無断で、ビル設備の維持管理、レストラン運営、海外・国内旅行取扱、JR乗車券・航空券手配等の旅行サービス等を業とする会社Xから新幹線回数券等を継続的に大量に買い受けた。

(2)Aは、この取引を始めるに際して、Xの旅行部門の課長であるBに対して、?直属の上司は社長だけであり、社長から直接指示されて本件取引をしている、?回数券の使用目的に関わり、Yが何万人も学生を集めて全国主要都市で開催する就職セミナー等のイベントのために、参加企業やYのスタッフが用いる回数券等、さらには参加学生のために立替えで用意する回数券を手配する必要があると説明していた。Xとしては、この乗車券等手配担当部門の年間売上はそれまで34億円程度であったので、この取引を歓迎すべきものと受けとめた。第1回取引については現金で代金500万円余を授受したのであったが、XがYの信用調査を行い、その決算内容等を検討して、財務状況に問題がないことを確認したうえで、第2回目からは、「毎月15日締め当月末日支払、毎月末日締め翌月15日支払」という売掛方式による注文となり、数日のうちに数千万円の取引に達した。その後、ほぼ連日注文となり、Aによる新幹線回数券等の購入は、平成21622日から平成22313日まで9か月近くの間に合計148回にわたり、代金総額は57億円ほどにのぼった。これは、Xの平成20年度の全売上高の3分の1をはるかに超えるものであった。なお、この継続的取引につき、XとYとの間には基本契約書は作成されていない。

(3)この取引にかかり、上記したほか、?AはYのロゴマークの入った文書をファックス送信している、?発注にはYのドメイン名を含むメールアドレスが用いられている、?回数券などの授受はY本社で営業時間内に行われていたことが認められる。また、?旅行保険の発注書には、Yの社判が押捺されており、航空券の発注に際し、Yの社長のパスポートのコピーが添付されたこともあった。代金支払いについては、?大半はY名義の口座からの振込みという形であるものの、わずかにつきA名義の口座からの振込みがあって、?数日後に請求額全額が入金されたかと思うと、半月から数ヶ月に亘り不規則に入金されることもあって入金日、入金額とも規則性がない(個々の取引額と入金額とは一対一に対応しないものが多く、1回の支払を複数の取引の一部ずつに充当するなどの処理が行われている)ものの、?平成221月発注分までの分については順次弁済期前になされ、すべて支払済みとなっている、?入金額が1日あたり1億円を超えることもあった、?やや変則的な入金状況ではあったものの、この点をXの経理担当部門もしくはBにおいてYの経理部門に問い合わせることはしていない、などの諸事実が認められる。さらに、?発注額が多額かつ頻繁となったため、平成2110月ころ、JR東日本の担当者から、取引額急増の事情について照会を受けたが、Bは、回数券等を必要とする理由としてAから説明されたところを述べただけで、Aから議員関係者が話をつけているから安心するようになどと言われると、AをJR東日本担当者に面会させる手筈を整えること、確認のためにYにあらためて照会することもせずAに任せてしまったという事実、?Xの取締役が、Yの社長に挨拶することを希望し、BがAに連絡を取ったうえで、平成21121日、数名でY本社を訪れ、Aと面談し、Aに社内を案内されたことがあったが、社内中枢部を案内されたと認識して満足してしまい、Aと面談しただけで、Yの社長はもとより、役員とも、営業担当者とも面談しなかったという事実も認められる。

(4)平成22314日に、Aの不正が発覚し、本件取引は終わった。

 

 【設問】

 平成222月以降の発注分の売掛代金8億円余につき未だ支払いがなされていない。そこで、Xとしては、この8億円余につき、Yに契約その他に基づく責任を負ってもらいたいと考える。もちろん、Yは、これに応じたくない。

 (1)

1)XのYに対する請求につき、訴訟物、請求原因を示しなさい。なお、付帯請求については論じなくてよいものとする。

  2)考えられるYの反論について、事実を摘示しつつ、示しなさい。

  3)Xの請求は認められるであろうか。その見通しを論じなさい。 

 

 (2)

1)Yは、むしろ、反訴によって、既払い分につき返してもらいたいと考える。どのような請求になるか。

2)考えられるXの反論は、いかなるものであろうか。

3)Yの請求は認められるであろうか。その見通しを論じなさい。

 

【課題3】

 Aは、会計事務処理をコンピュータ化しようと、コンピュータ販売会社であるBと取引交渉をしてきたところ、2010年1月中旬に、Bとの間で、代金70万円でコンピュータ甲を買う旨の売買契約を締結した。この契約には、売上、仕入、在庫、経費並びに工事、ユーザー、営業担当者、日付毎の原価計算にかかる会計基本システムをA用にカスタマイズした会計プログラム・システム乙(70万円のうち、50万円相当)を提供することが含まれていた。この契約が結ばれるにあたって、Bが設立後間もない会社であることを気にしたAの求めに応じて、Bの関連会社Cが売主に連帯して保証することとし、その旨の契約書も作られた。Bは、約定どおり同年4月中旬に、甲をAに引き渡し、Aから代金70万円の支払を受けた。

 ところで、甲には機器として使用上特段の問題はなく、実際にも文書作成ほかに支障なく用いられたのではあるが、上記基本システム自体が開発後日が浅く必ずしもこなれたものであるとはいえず、加えて、Aのためのカスタマイズを急がされたこともあって、確かに乙には、このシステム設計上前提とされた「要件定義」に照らして、いろいろと不具合があり、加えて、付せられている仕様書・説明書は必ずしも分かりやすいものでなく、B担当者によるAの会計担当者への使い方の説明が十分でないということも相俟って、とくに1在庫プログラムから原価計算プログラムに自動移行せず、また自動移行してはならないものが自動移行してしまう、2原価計算の担当別プログラムは、担当者毎にコード番号が付され、コード番号順に表示されなければならないのにその処理がなされない、3原価計算の担当別プログラム・日付別プログラムは、毎月21日より翌月20日締切りで合計表示がなされなければならないのにその処理がなされないなどの点で、問題が生じた。A担当者から、この不都合をなんとかしてほしいとの申入れが再三なされたのであるが、B担当者は、コンピュータは故障なく作動しているのであって、むしろ使い方が悪いのではないか、不都合はもっぱらシステムのカスタマイズにかかるこちらの諸提案についてきちんとした応接、理解をしてくれていないことによるものであると思うなどと言うのみで、乙の上記問題はいっこうに改善されないままであった。
 そこで、この案件の解決を委ねられていたA担当者は、同年8月28日に、B担当者に架電し、こんなことではもうがまんがならない、甲を引き取ってもらわなければならないなどと述べた。ところが8月30日の夜にその地を襲った台風による浸水被害で、甲は水没し、使用不能となってしまった。なお、契約解除通知書は、2週間ほどが経過した9月15日に、Bのもとに届いている。
 Aは、BそしてCに、少なくとも支払った代金70万円の返還を求めたい。BそしてCは、甲が滅失したことでもあるし、これに応じたくない。
 なお、現在は、2011年10月末である。

(1)こうした事情のもとで、
  1)AのBに対する請求は、どのようなものになるであろうか。

  2)予想されるBの反論はどのようなものになるであろうか。

  3)AのCに対する請求は、どのようなものになるであろうか。

  4)予想されるCの反論はどのようなものになるであろうか。


(2)乙の価値滅失が、8月30日Aの事務所に宿直したAの従業員の失火による場合には、水害による価値滅失の場合と異なるであろうか。上記問(1)1)、2)についてのみ、答えなさい。

【課題4】

  下記(事案)について、下記(設問)に答えなさい。

 【事案】

1 Xは、平成12年3月にその所有土地をA県土地開発公社の仲介によりB道路公団に売却した際、同公社職員であるZと知り合った。

  Xは、平成13年1月に、Zの紹介で、CからC所有の甲土地及びその地上の木造2階建乙建物(以下この土地、建物を「本件不動産」という)を代金7300万円で買い受け、同月中に所有権移転登記を得た。

2 Xは、Zに対し、本件不動産を第三者に賃貸するように取り計らってほしいと依頼し、平成13年2月、Zから言われるままに、業者に本件不動産の管理を委託するための諸経費の名目で240万円をZ に交付していた。

 そして、Xは、Zの紹介により、平成13年7月以降、本件不動産を第三者に賃貸してきたが、その際の賃借人との交渉、賃貸借契約書の作成及び敷金等の授受は、すべてZを介して行われていた。本件不動産について、後記4のXからZ への所有権移転登記がなされた平成17年2月1日当時及び後記5のZとY間で売買契約が綿結された同年3月23日当時においても、本件不動産の当時の賃借人Dとの賃貸借契約に関する事務もZにより行なわれていた。

3 平成16年9月から同17年1月にかけて、XとZ間で、次のようなやり取りがあった。

(1)Xは、平成16年9月21日、Zから上記2の240万円の返還手続のため本件不動産の登記済証が必要であると言われ、これをZに預けた。

(2)Xは、以前に購入したが?への所有権移転登記が未了のままになっていた別件丙土地についても、Zに対し、所有権移転登記手続及び隣接地との合筆登記手続を依頼していたが、Zから、その登記手続に必要であると言われ、平成16年11月末頃及び平成17年1月末頃の2回にわたり印鑑登録証明書各2通(合計4通)をZに交付した。

(3)XがZに本件不動産を代金4300万円で売り渡す旨の平成16年11月7日付売買契約書(以下「本件売買契約書」という)がその頃作成されていた(しかし、これは実際には、その際?が、その言い分にあるように、本件売買契約書の内容及び使途を確認することなく、本件不動産を売却する意思がないのに、Zから言われるままに署名押印したものである)。

4 Xは、平成17年2月1日に、Zから丙土地の前記登記手続に必要であると言われて実印を渡し、Zが所持していた本件不動産の登記申請書(XからZ への所有権移転登記手続のためのもの)にその場で押印するのを漫然と見ていただけで、その内容とか使途を確認することもなかった。

 Zは、Xから預っていた上記3(1)ないし(3)に記載の各書類と上記登記申請書を用いて、同日、本件不動産につき、?からZ に対する同年1月31日売買を原因とする所有権移転登記手続(以下、この登記を「本件登記」という)をした(しかし実際には、Xは、その言い分にあるとおり、この本件登記がなされていたことも知らなかった)。

5 Zは、平成17年3月23日に、Yとの間で、本件不動産の売買契約(代金3500万円)を綿結し、その後の同年4月5日、これに基づきYへの所有権移転登記が経由された。

 上記売買契約締結に際し、YはZから登記済証を示され、また本件不動産にZがE銀行からの1500万円の借入金を担保するために抵当権を設定していることを確認していた(この抵当権設定登記は、YからZへの売買代金支払時に、1500万円の弁済により抹消されている)。

6 Xの言い分

 XはZに本件不動産を売り渡したことはないし(本件売買契約書の作成の経緯は上記3(3)のとおり)、本件登記がなされていたことも知らなかった(また、YもZが本件不動産の所有者でないことを知っていたか、知らなかったことに過失がある。ZからYへの売買代金は不当に廉価である。

 それに、XはZに対し、本件不動産の買入れの代理権はもとより賃貸に関する代理権も授与してはいない。

 そこで、本件不動産について、登記を自己の名義に回復したい。

7 Yの言い分

 XはZに本件不動産を売り渡したものである。

 また、Yは、XがZに本件不動産を売り渡したものであって、Zが本件不動産の所有者であると信じていたし、そう信じたことに過失もない。Yは、 Zから、Zの自宅の隣接地が急に売り出されたので、これを買い入れるべくその資金を作るため、本件不動産を急遽売却することにした、と聞いているし、Yが買い受けた当時の査定では、本件不動産の価額は3500万円位であった。

 それに、XはZに対し、本件不動産の買入れ及び賃貸に関する代理権を授与していたものである。

 【設問】

1 XがYのみを被告として訴えを提起する場合、請求の内容(請求の趣旨)をどのようにすべきか、その訴訟物は何か。

2 Xの主張すべき請求原因事実を示したうえ、これに対してYはいかなる事実を抗弁として主張したらよいか検討し、その理由を述べなさい。

【課題5】

  以下の【事案】を読み、【問1】、【問2】に答えなさい。配点の比重は、7対3とする。

【事案その1】

   ブリ、ハマチ、カンパチなどの養殖、加工、販売等を業とするA会社は、平成18年6月30日、B会社のAに対する現在および将来の養殖用飼料の売掛金債権(極度額20億円)を担保するために、担保目的を甲漁場、乙漁場の生簀(いけす)内に存在し、その後補充される養殖魚全部とする集合動産(根)譲渡担保契約を、同年12月10日、C銀行の貸金債権(極度額10億円)を担保するために、担保目的を乙漁場の生簀内のすべての養殖魚とする集合動産(根)譲渡担保契約を、それぞれB、Cとの間で締結し、占有改定の方法で目的物の引渡しをなしている。この譲渡担保権設定契約においては、Aが養殖魚を通常の営業方法に従って販売できること、その場合、Aはできるだけ速やかにこれと同価値以上の養殖魚を補充することなども定められていた。

  食品の専門商社であるDは、Aとの間で、平成21年4月30日に、以下の2契約を締結した。

契約1(「原魚売買並びに飼育預託等に関する契約」)

  1    Aは、Aの所有する甲漁場の特定の20基の生簀内のブリ10万尾(以下において原魚という)をDに売却する。売買代金については、AのDに対する同日までの貸金債権をもって充当し、対当額で相殺する。ブリ10万尾の所有権は同日移転のうえ占有改定の方法で引き渡す。

  2    Aは、Dから、平成22年4月30日までの間、原魚の飼育・管理につき預託を受ける。

  3    Dが現実の商品としてスーパーEへ平成21年10月1日から同22年4月30日までの間に原魚を販売する場合には、DのEへの出荷量に応じてこれをAが買い戻してフィレ加工し、再度Dに売却することにする。買戻代金と加工販売代金とを相殺する。

  4    Aに破産等の事由が生じたときは、Dは、契約を解除でき、また支払不能の場合には、Dは預託原魚を第三者に転売できる。

  5    原魚がD所有であることおよび預託期間を表示した標識を生簀に設ける。

 契約2(「養殖魚売買契約」)

  1    Aの所有する乙漁場の生簀50基内のハマチ25万尾余を譲渡する。

  2    DはEなどへの売却目的のため平成21年7月31日までにすべてのハマチを生簀から移動させるが、それまでの飼育費、加工費はDにおいて実費を負担する。

生簀から移動するまでの間の病気、盗難、天災等によって生ずる損害はAの負担とする。

  3    原魚がD所有であることを表示した標識を生簀に設ける。

 

 その後まもない平成21年7月30日、Aは、民事再生手続開始の申立てをし、8月4日に開始決定がなされた。

 

 【問1】

 そこで、Dは、Aに対して、再生手続開始決定前に、上記契約1、契約2に基づいて、本件各物件(ブリそしてハマチ)につき所有権を取得したとして、所有権に基づく本件各物件の引渡しを求める。これは認められるか。集合物譲渡担保の有効性、その機能、A・D間の契約において用いられている契約文言、養殖魚の占有状況、譲渡担保権相互間の優劣関係などに留意しつつ、各物件につき答えなさい。

 

【事案その2】

Aは、平成19年7月末、Fから事業資金として弁済期を平成21年7月末とする2億円の融資を受けたが、Fのために、担保目的を丙漁場の生簀内に存在し補充される養殖魚全部とする集合動産(根)譲渡担保権を設定した。その内容は、上記のB・Cのためのものとほぼ同様である。ところが、平成21年7月上旬に赤潮が発生し、該漁場の生簀内の養殖魚がほぼ半数が死滅してしまった。しかし、これによって、Aは、G共済連合会との間の漁業共済契約に基づき、Gに対して養殖魚の滅失による損害を填補するための漁業共済金請求権を取得している。

 

【問2】 

Fにおいて、残存していた養殖魚を売却し、その代金を融資金の回収に充当したが、なお残債権があるので、Fとしてはこの共済金請求権をあてにしたい。Fによる、該共済金請求権の差押えの申立ては認められるか。あてにするとは法的にどういうことを意味するか、集合物動産譲渡担保の特質を考えつつ、検討しなさい。

       ※ 事案その1、その2を通じ、現在は、平成21年8月中旬である。

【課題6】

  下記事案について、設問に答えなさい。

 【事案】

 1 Xは、その所有地を有料駐車場として賃貸している者であるが、平成17年10月29日、Aに対し、上記駐車場の一区画(以下「本件土地」という。)を、自動車(以下「本件車両」という。)の駐車場として使用する目的で、賃料月額5000円、毎月末日払として貸し渡した(以下、この契約を「本件賃貸借契約」という。)。

 2 AとY(信販業者)は、平成17年11月22日、Aが自家用車として自動車販売店から購入する本件車両の代金をYが立替払すること等を内容とする下記のとおりのオートローン契約(以下「本件立替払契約」という。)を締結した。

 (1) Yは、本件車両の代金を立替払し、Aは、Yに対し、この立替払により発生する240万円(本件車両代金200万円及び分割手数料40万円)の支払債務(以下、「本件立替金債務」という。)を平成17年11月から平成22年10月まで毎月末日限り4万円ずつ60回に分割して支払う。

 (2) 本件車両の所有権は、自動車販売店からYに移転し、Aが本件立替金債務を完済するまで同債務の担保としてYに留保される。

 (3) Aは、自動車販売店から本件車両の引渡しを受け、善良な管理者の注意をもって本件車両を管理し、本件車両の改造等をしない。

 (4) Aは、本件立替金債務について、分割金の支払を1回でも怠ってYから催告を受けたにもかかわらずこれを支払わなかったとき、強制執行の申立てのあったとき等には、当然に期限の利益を喪失し、残債務全額を直ちに支払う。

 (5) Aは、期限の利益を喪失したときは、事由のいかんを問わず、Yからの同人が留保している所有権に基づく本件車両の引渡請求に異議なく同意する。

 (6) YがAから本件車両の引渡しを受けてこれを公正な機関に基づく評価額をもって売却したときは、売却額をもって本件立替金債務の弁済に充当する。

 3 Aは、平成20年1月以降、本件立替払契約上の分割金の不払を続けている。

  なお、Yは、平成20年3月10日到達の催告書(内容証明郵便)をもって、Aに対し、同月17日までに同年1、2月分の分割金合計8万円を支払うよう催告したが、Aから何らの支払もなかった。

 4 Aは、本件賃貸借契約に基づく平成18年12月分以降の賃料を支払わなかった。

  そこで、Xは、平成20年4月27日付けで本件賃貸借契約を解除する意思表示をし(同年5月10日到達)、同年12月19日、Aに対して本件車両の撤去、本件土地明渡し及び本件賃貸借契約に基づく未払賃料等の支払を命ずる確定判決に基づき、Aの給料債権等を差し押さえた。

  しかし、Aが当該勤務先(第三債務者)を同年9月30日に既に退職していたため、差押は空振りに終り、Xは、平成21年1月13日、上記差押申立ての取下げを余儀なくされた。

  なお、Aは平成21年1月当時には所在不明となっている。

 5 本件賃貸借契約終了後も、本件土地上には、本件車両が駐車、放置されている。

 6 本件車両の自動車検査証には、Yが所有者、Aが使用者として記載されている。

 7 そこで、Xから依頼を受けた甲弁護士は、Yを被告として、本件土地の所有権に基づき本件車両の撤去と本件土地明渡しを求めるとともに、不法行為に基づき本件土地の駐車場賃料相当損害金の支払を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起し、その訴状は平成21年1月31日Yに送達された。

  なお、Xは、本件訴訟前には、Yに対して本件車両の撤去を求める催告はしていない。

 【設問】

 1 甲弁護士としては、本件訴訟において、Yの本件車両撤去義務を基礎付けるために、どのような主張が考えられるか。本件車両及び本件土地の占有関係、本件車両の所有名義、本件立替金債務の期限の利益の喪失とYの本件車両を占有し処分することができる権能等の点を踏まえ、理由を示して述べなさい。

 2 仮に、XのYに対する本件車両の撤去、本件土地明渡しの請求が認められるとすれば、Yはいつの時点から賃料相当損害金の支払義務を負担するか、理由を示して述べなさい。

【課題7】

        (20**年度民事法特別演習2 定期試験問題)

下記事案について、設問に答えなさい。

              (注)答案作成にあたっては、事案記載の事実を、その頭書番号を付して適宜引用してもよいものとする。

 【事案】

 1(1) Xは、通常不特定多数の顧客が対象となるカラオケ店などの経営を目的とする株式会社であり、後記本件事故が起きた平成17年2月当時には10店のカラオケ店を営業していた。

   (2) Yは、不動産業などを目的とする株式会社であり、昭和50年10月1日、鉄筋コンクリート造の地下1階付5階建建物(以下「本件ビル」という)を建築し、その所有権を取得した。

 2 (1) Yは、Xに対し、平成12年3月5日、期間を平成13年3月4日まで、賃料を月額20万円、使用目的を店舗として、本件ビルの地下1階店舗部分360?全部(以下「本件店舗部分」という)を貸し渡した(以下、この契約を「本件契約」という)。

   (2) 本件契約には、次のような約定がある。

  ア Xが賃料を2か月以上滞納したとき又は、Yに何ら通知せず1か月以上本件店舗部分を無人にしたときあるいは、Xに賃借の意思がないと判断できる状況のときなどには、Yは催告なしに本件契約を解除できる。

  イ 本件店舗部分が朽廃などの事由により使用不能となったときなどには、本件契約は当然に終了する。

  (3) Xは、本件店舗部分にカラオケルーム10室を設け、カラオケ機器を設置するなどの準備をして、カラオケ店営業を始めたが、その準備に本件契約締結後3か月間かかった。

  (4) 本件契約は、その後、平成13年3月5日に期間を平成14年3月4日まで、平成14年3月5日に期間を平成15年3月4日までとしてそれぞれ更新され、同日に賃貸借期間が満了したが、その継続に関する協議が成立しないまま、Xは本件店舗部分でのカラオケ店営業を継続した。

 3 本件ビルにおいては、平成12年9月ころから、本件店舗部分に浸水が頻繁に発生し、本件ビル3階のトイレの水が止まらなかったことがその原因であったこともあるが、本件店舗部分7号室横からの浸水のように浸水の原因が判明しない場合も多かった。

 4 (1) 平成17年2月12日、本件ビル地下1階に設置された浄化槽室内の排水用ポンプの制御系統の不良又は一時的な故障が原因となって、本件店舗部分8号室脇の洗面台の排水管の床面との継ぎ目部分等から汚水が噴き出し、7号室からも汚水が出水し、本件店舗部分が床上30〜50cmまで浸水した(以下「本件事故」という) 。

本件ビルの地下1階では、同月17日にも同様の場所から汚水が出水し、同程度に本件店舗部分が浸水した。

   (2) Xは、本件事故以降、本件店舗部分でのカラオケ店の営業ができなくなった。そこで、Xは本件店舗部分の取片付けもしないで、設備や什器備品をそのままにしていた。

   (3) そして、Xは、Yから受領拒絶されたため、平成17年3月分から平成18年3月分までの賃料を供託したものの、その後の賃料は支払っていない。

 5 (1) Yは、平成17年2月18日付け書面をもって、Xに対し、本件ビルの老朽化による事故発生の危険性、本件店舗部分を含む地下1階の修繕の困難性等により本件契約を継続できないことを理由として、本件賃貸借契約を即時解除し(以下「第1次解除」という)、本件店舗部分の明渡しを求める旨の意思表示をし、同書面は、そのころXに到達した。

   (2) Yは、本件事故直後より、Xからカラオケ店の営業を再開できるように本件ビルを修繕するよう求められていたが、これに応じず、上記解除により本件賃貸借契約は即時解除されたと主張して、Xに対して本件店舗部分からの退去を要求し、本件ビル地下1階部分の電源を遮断するなどした。

 6 本件ビルについては、平成17年1月、調査会社により、大規模改装に向けての設備及び建物状態の調査が実施された。

  そのビル診断報告書には、?電気設備については、今後思わぬ事故等の発生が懸念され、改装後の電力需要に合わせて全体的に更新する必要がある、?給水設備は、全体的にさびによる腐食が進行しており、このまま使用すると漏水の懸念があり、周辺機器も含めて継続使用が難しい状態と判断される、?排水設備については、排水配管は全体的に更新する必要があると判断され、その他汚水配管、排水槽等は改装時に調査のうえ、その仕様に合わせた改修及び清掃等が必要と思われる、?このような大規模改装・改修には多大な費用を要するなどと記載されていた。

  このように、本件ビルは、本件事故前、老朽化により大規模な改装とその際の設備の更新の必要があったが、直ちに大規模な改装及び設備の更新をしなければ当面の利用に支障が生じるものではなく、本件店舗部分を含めて朽廃等の事由による使用不能の状態にはなっていなかった。

 7 (1) Xは、 本件店舗部分における営業再開のめども立たないとして、平成18年9月14日、YはXの営業が再開できるように本件ビルを修繕すべき義務(以下「本件修繕義務」という)があるのに履行しないなどと主張して、営業利益喪失等による損害の賠償を求める本件訴訟を提起した。

  損害賠償請求額の内訳は、?カラオケ機器の毀損による損害として1,500万円、?本件店舗部分改修費用として3,500万円、?逸失営業利益として本件事故の翌日以降月額100万円の割合というものであった。

   (2) これに対し、Yは、本件修繕義務の存在を否定し、さらに、Xに対し、平成19年9月13日、賃料不払等を理由として本件契約を解除し(以下「第2次解除」という)、本件店舗部分の明渡しを求める旨の意思表示をした。

 8 (1) Xは、 本件訴訟提起前の平成17年5月27日、本件事故によるカラオケ機器等の損傷に対し、損害保険会社との間で設備什器を目的として締結していた保険契約に基づき、カラオケ機器及び本件店舗設備の毀損に対する損害保険金として3000万円、臨時費用保険金として500万円、取片付費用保険金として100万円、計3,600万円の支払いを受けたが、これらの保険金の中には営業利益損失に対するものは含まれていなかった。

   (2) Xにとっては、この保険金の受領により、再びカラオケ機器等を整備するのに必要な資金の相当部分が確保できた。

 9 Yとしては、Yがたとえ本件事故の原因部分を修繕したとしても、本件ビル自体が老朽化して大規模な改修を必要としていたため、Xが本件賃貸借契約をそのまま長期にわたって継続し得えたとは考えられなかったし、また、実際にも本件店舗部分における営業の再開はいつ実現できるかも分からない、実現可能性も乏しい状況であり、Xに対しても、損害保険会社から保険金が入っているのに、カラオケ店営業を別の場所で再開する等の措置を何ら執らず、本件事故後本件店舗部分をそのままにしながら、本件事故後の営業利益損失を全部Yに負担させようとするのは、虫のいい言い分ではないか等と考えている。

 【設問】

 1 Yの修繕義務不履行を請求原因として主張するXの本件損害賠償請求に対し、Yが第1次解除及び第2次解除による本件契約の終了を主張することは意味があるか。

  あるとすれば、どのような意味を持つか。

 2 Xの第1次解除による本件契約の即時解除が無効であるとした場合、この解除の意思表示は、借地借家法27条による解約の意思表示としての意味を持つとすれば、本件契約の解約についてどのような事実を主張することが考えられるか。

 3 X主張のカラオケ機器の毀損による損害及び本件店舗部分改修費用の請求に対し、Xが損害保険金(3,000万円)を受領した事実に基づいて、Yには商法662条との関係においてどのような主張が考えられるか。

 4 Yの第1次解除、借地借家法27条による解約及び第2次解除による本件契約終了の主張がすべて認められず、Yに修繕義務不履行があるとした場合、Yは、X主張の修繕義務不履行による営業利益喪失の損害につき、本件店舗部分におけるカラオケ店の営業の再開及び継続の可能性、カラオケ店舗移転による営業再開の可能性等の点から、Yが負担すべき損害額を減少させるために、いかなる事実に基づきどのような主張が考えられるか。

  これに対し、Xはいかなる事実に基づきどのような主張が考えられるか。

【課題8】

  Aの父Bは、1甲土地、甲土地上に賃貸用マンションである2乙建物、甲土地に隣接して3丙土地を所有していたが、平成13年2月3日に死亡し、その唯一の相続人であるAがこれらすべてを相続した。

 1 Aは、要旨次のような約定内容により、乙1号室(1K)を平成18年9月9日からCに、乙2号室(1K)を平成20年4月5日からDに、それぞれ賃貸していた。

a 賃料共益費 月額5万5000円

   ※   なお、当地域における1Kの家賃相場は5万円弱である。

b 保証金   保証金は40万円とし、賃貸人は本賃貸借契約終了・本件建物引渡し後に30万円と延滞賃料共益費等を差し引いて賃借人に返還する。

   ※   このように一定額(本件では30万円)を差し引く特約は「敷引特約」とよばれる。なお、敷引金の性質については、一般に、賃貸借契約成立の謝礼、賃貸目的物の自然損耗の修繕費用、更新時の更新料免除の対価、契約終了後の空室賃料、賃料を定額にすることの代償などと説明されている。

c 契約期間  平成18年9月9日から19年9月8日まで(Dについては、平成20年4月5日から21年4月4日まで)とし、以後双方から申し出ない限り同一条件で自動更新される。

d 解約    賃借人が本件賃貸借契約を解約する場合、1か月前までに申し出なければならない。

e 修繕    賃借人が本件建物を使用するために必要な修繕は、賃借人が自己の責任において行う。

f 立入り   賃貸人は、本件建物の管理上特に必要があるときは予め賃借人の承諾を得て本件建物内に立ち入ることができる。賃借人は正当な理由がある場合を除き、賃貸人の立入りを拒否することはできない。

g 無催告解除 賃貸人は、賃借人に賃料共益費の不払い、無断譲渡・転貸があった場合には、無催告で本件賃貸借契約を解除できる。

問(1)

  A(男性)は、Cの側から申入れられたクーラーの修繕のため、修繕業者の都合上予めCから立入りの承諾を得ていた日の前日である平成20年9月18日に、乙1号室に立ち入った。若い女性であるCは、Aが無断で立ち入ったのにためらいもなく排水溝の使い方が悪いなどと注意したこと、部屋の片づけをなおしないままでいたところに立ち入られたことなどから憤りを感じ、家主が無断で居室に立ち入るようなところに住んではいられないと考え、相談した弁護士を介し平成20年9月24日付で無断立入りを理由に契約を解除し(解除通知は26日に到達)、同25日には乙1号室をAに返還した。Cは、保証金の返還、無断立入りにかかる引越費用その他の損害につき賠償の請求をするが、Aは、1日ずれたとはいっても予め乙1号室への立入りについて承諾を得ていたのである、立ち入ったのはごく短時間である、未払賃料共益費が5万5000円ある、敷引特約がなされているなどを理由に、これに応じようとしない。Cのかかる請求は認められるか。

問(2)

  Dは、平成20年9月はじめ、約定に反してAの承諾を得ることなく、乙2号室をEに又貸しした。Eは、同年10月1日にこの部屋の浴室で自殺を遂げ、その数日後、職場の同僚であるFによってEが自殺しているのが発見された。驚いたAは、Dとの本件契約を解除し、Dに乙2号室の返還および損害の賠償を求めるとともに、DがAに対して負担する一切の債務を保証すると合意した保証人Gに対して、該損害額について保証債務の履行を求める。居室内におけるEの自殺によって賃料の減少等の逸失利益があるというのである。Dらは、賃貸目的物が物理的に損傷したというのでないのであって損害は生じていないなどを理由にこれに応じようとしない。AによるD、Gに対する請求は認められるか。

関連課題

 Bは、昭和59年4月はじめ、丙土地を、Hに対して、建物所有目的で賃貸した。契約期間は20年とされた。Hは、そのうえに非堅固建物(旧建物)を建築し、そこに居住して畳製造販売業を営んでいる。その後、本件賃貸借は、平成16年にAとHの間で合意更新されている。この契約には、賃借人が本件土地上の建物を他に譲渡するときは予め賃貸人の書面による承諾を受けなければならない旨の特約がなされている。Hは、そこに妻Iおよび子Jとともに居住し、その後JがKと婚姻しその間に子Lが生まれ、K、Lもそこに居住するようになった。

平成18年頃、建物の建て替えにかかり、BとI・Jとの間で承諾条件につき交渉がなされ、その結果、建て替え後の新建物につき、H・I・Jがそれぞれ10分の1、10分の2、10分の7の持分で共有することにし、承諾料を500万円とするという申入れがBによって承諾された。ところが、完成した新建物については、建築費の出捐額に応じI・Jの持分がそれぞれ10分の3、10分の7の共有する旨の所有権保存登記がなされた。

当初建て替えに消極的であったHは、最終的に、I・Jが新建物を建築しこの持分割合で共有することを容認した。新建物には、H・I・J・K・Lの5名が居住していたのであるが、Jは、平成21年2月、Kとの離婚の届出をし、財産分与として該建物の持分10分の7をKに譲渡し、その旨の登記も経由された。この財産分与についてはHも容認している。Jは、同年6月に破産手続開始の決定を受け、同年8月にはこの建物から退去している。

なお、この間、地代の支払いはHの銀行口座からAの銀行口座に振り込むという形で滞りなく行われてきた。また、IおよびKは、平成22年9月はじめこの地方を襲った台風で丙地の一角が崩れそのまま放置しておくと該建物の倒壊のおそれが生じたので、応急的に200万円の費用を投じて崩壊をとどめるための工事を行っている。 

問(1)

  Aは、平成22年8月に、該建物の登記事項証明書を取りよせて、初めて、実際の共有関係が建て替え交渉においてIらから説明され承諾していたのとは異なることを知り、同年9月28日、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、建物収去土地明渡し、および明渡しまでの賃料相当額を請求する。この請求は認められるか。

問(2)

  工事費用200万円の出捐をしたIおよびKは、Aに対して費用の償還を求めることはできるか。問(1)の答えと関連させて論じなさい。

【課題9】

   介護サービスを業とするA社は、車椅子の製造販売をするB社から、補助モーター付き介助用車椅子数十台を購入し、希望する顧客に賃貸している。ある私立高等学校の教員を定年(65歳)まで勤め上げ年金生活に入って半年ほど後に脳梗塞をおこし、その後遺症によって介護を必要とするようになってからすでに1年余になる67歳のCは、その妻Dを介して、A社からこれまで借りていた手動式の車椅子に替え、その補助モーター付き車椅子を借り受けた。賃借して数日後のある日、DはCを車椅子に乗せて散歩をさせていたところ、その使用法について十分な説明を受けていなかったこともあって、下り段差のあるところでつまずき思わずスイッチバーを握ってしまったため、車椅子が思わぬ方向に走り出し、運悪く車輪の一つが側溝に落ち、転倒してしまった。このとき、Cは、頭を強く打ち、病院に運ばれ救急治療を受けたが一週間も経たずに死亡した。B社製のこの型の車椅子については、これまで新聞等において、同種の事故例が何件か報道されている。なお、Dは、Cと7歳離れており、これまで結婚して後ずっといわゆる専業主婦として家事一切をきりもりし夫を支えてきたものであって、とりたてて収入はない

  こうした事情の下、Cの妻であるDは、こんな車椅子を使わなければ夫を死なせなくてすんだのにと悔い、悲しみ、ちょっとつまずいたくらいで暴走するような車椅子を作ったB社、この車椅子の便利さだけを強調したA社に対してしかるべき弁償をしてもらいたいと考え、C・D間の一人息子Eの長女で法科大学院生のFにどうしたらよいか相談にのってくれるよう頼むこととした。

 Fとしては、A社、B社についての責任論・損害論に加えて、予想される両社の反論につき、Dに丁寧にアドバイスしたい。どのようなアドバイスになるであろうか。

【課題10】

  次の【事案】を読み、下記の小問1(1)・(2)、小問2(1)・(2)に答えなさい。

【事案】

  (1)Aは、地方の某市の駅前繁華街から歩いて10分ほどのところに立地する甲マンション(管理規約によって各居室はもっぱら住宅用として使用するものとされている)の居室乙を取得し、平成19年12月頃から、同居室内の数室ある個室において、アロマセラピストとして採用した女性に、芳香性のオイルを客の身体に塗布してマッサージを行わせ、顧客の要望があれば加えて性的サービスをさせ、サービスに応じた料金を得るという営業を行ってきた。この営業は、実質的には、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」にいう「店舗型の性風俗特殊営業」といえるものであった。

  (2)Aは、はじめのうち、繁華街でチラシを配る、携帯電話やインターネットのサイトを使って広告するという形で営業をしてきたが、平成20年10月頃から、Bが主催するパンフレット誌「Bマガジン」(月刊)にも広告を掲載している。掲載に至ったいきさつは、指定暴力団某組の組員であるBが、「自分は某組に属する者だが、われわれに挨拶なしでは商売をやらせない。あんたの店は当組が守ってやる」などと、Aに申し向け、月々20万円でという話にしぶるAに対し、それなら月々10万円にしてやろうということで、掲載期間をAが当所で商売を続ける限りとして、該マッサージ店の広告を掲載することとしたというものである。なお、契約交渉において、「Bマガジン」の発行部数、配布先・配布方法などは、まったく話題とされていない。Aは、強く求められ気圧されたという面もあるが、このような商売をするためにはやむを得ない出費かとも考え、面倒がないほうがよいとBの話に応じたものであって、ほぼ滞ることなく月々10万円をBに支払ってもきた。しかし、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」に基づく暴力的要求行為について規制が進み、街ぐるみの暴力追放運動が進む中で、Aは、平成23年8月から同年10月までの3か月分についてはBに約束した広告料の支払いをしていない。

  (3)ところで、平成20年11月頃、Aは、同マンションの管理組合から、居室乙において、性風俗営業又はこれに類似する営業を行っているため、深夜に部外者が出入りすることによって、甲マンションの住民に対し、安全性に対する不安、性風俗営業による嫌悪感、騒音、振動の発生による不快感等を与え、さらに営業内容の広告等によって居室乙における上記営業が外部に知られると、甲マンションの社会的評価を低下させ、財産的価値の下落を招くことになるから困るなどとして、「建物の区分所有等に関する法律」57条にかかる訴訟も辞さない、などという強い苦情を受けた。Aは、はじめは言を左右にしていたが、しばらくして後、ここでの該営業に見切りをつけ、居室乙を手放そうと考えるに至った。そして、居室乙の売却の仲介を、この地で長く仲介事業を行ってきた地場の不動産会社C社に依頼した。担当者は、C1であった。Aは、居室の内覧なども予定されるので、平成23年11月までには、居室乙の内部改装工事を済ませた。その工事の内容は、内部のクロスの貼り替え、床シートの貼り替え、床フロアーの重ね貼り等であって、浴室、台所などは従前のままであった。この工事により、上記風俗営業の痕跡は外見上残っていない。仲介に際して、C社の担当者C1は、居室乙の管理会社Eに対して、定型の調査依頼書を送付したり、個別に聴き取りを行うなどして居室乙に関する物件調査を行ったが、EからAの目的外使用の点について特段の情報提供はなかった。

  (4)他方、東京に居住するDは、その頃、定年を1年後にひかえていたが、妻ともどもこの市が郷里であったので、退職後の住居とするために、この地にマンションを購入しようと考え、同じくC社に仲介を依頼した。媒介担当者は、C2であった。

  Dとしては、一度内覧をしたが、C2の説明を聞き、立地、建物の築年数、居室乙の専用部分の面積、小ぎれいに内装工事が済んでいる部屋の状態からして、示されている価格2500万円は相当であると考えた。なお、C2は、C1との間で、居室乙について情報交換を適宜行い、C1から、Aが居室乙でこれまで風俗営業を行っていたという噂があることなどの概要について聞いてはいたが、上記改装によって営業の痕跡は外見上残っていないということから、この点につき、とくに細かな調査をすることはせず、Dあるいはその妻に対して一切説明をしなかった。

  こうして、AとDとの間で、平成23年12月13日、C社で担当者C1・C2同席のもと、代金を2500万円、手付金を100万円とし、引渡しを平成24年2月14日とする、居室乙の売買契約が締結された。その際、C1が、重要事項説明書を読み上げたが、ここでも、売主Aによる居室乙の使用状況、Aがここで風俗営業をしていた噂があることなどはとくに説明されなかった。また、この日に、A・D双方からC社に対して仲介報酬が支払われている。

  その後、約束通り、上記引渡日に、某銀行某支店において、A・D、C1・C2、司法書士某があい会し、残代金の支払い、引渡しがなされ、当日所有権移転登記の申請もなされ、その後間もなく、所有権移転登記も経由された。

  (5)ところが、Dらが甲マンションに住み始めて間もない、平成24年3月中旬に行われた甲マンション管理組合総会で、「専有部分に於ける営業行為」が議題になった際、居室乙において風俗営業が行われていたという上記過去の経緯が話題となり、こうしたことがあっては甲マンション自体の価値が減少することになるから二度と同じ営業行為は許可しないとの議論がなされたことから、Dらは総会や理事会に出席する度に恥ずかしく非常に肩身の狭い思いをするところとなった。とくに、Dの妻は、居室乙に関する上記情報を知ったことが原因で心因反応となり、不眠・憂うつ感・全身倦怠感・意欲低下・日常生活における困難性などの症状が出たため、長期間にわたり心療内科の治療を受け、治療費として30万円を支払っている。また、Dらは、居室乙の中でも特に寝室や浴室に不快感を抱き、業者に浴室のクリーニングを依頼し、さらには、殺菌消毒ができるという高温スチームの掃除機を購入するなどをして10万円を支払っている。また、Dらは、居室乙について、こんな「事故物件」では実際には2500万円までの値打ちはないであろうと考えている。

  Dは、この点につき、仲介をしたC社の担当者C2にこんな物件を何の説明をすることもなく紹介するなんておかしい、善処してほしいと述べ、このことは平成24年8月21日Dの依頼を受けてC1によってAに間違いなく伝えられている。

                                                                                                                                         ※ 現在は、平成25年1月21日である。

 小問1

  (1)Dは、Aに対して、損害賠償を求めたい。どのような請求をすることが考えられるか。それに対して予想されるAの反論につき検討し、該請求が認められる見通しについて述べなさい。

  (2)Dは、C社に対して、どのような請求をすることが考えられるか。それに対して予想されるC社の反論につき検討し、該請求が認められる見通しについて述べなさい。

 小問2

  (1)Bは、Aに対して、広告料未払分の支払いを求めたい。これは認められるか。

  (2)むしろ、Aは、既払分の返還を求めたい。これは認められるか。

※ 参考

〈1〉「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」につき、「立法の趣旨は、市民生活の安全と平穏の確保を図ることにあり(同法1条)、この目的自体は必要かつ合理的なもの」であり、「ただ特定の団体の壊滅等のためにのみ制定されたものではない上、暴力団の構成員にとっては、法が企図する規制は、自らの他の人権侵害を阻止される結果になるというにすぎず」、「団体の活動の制限、団体の解散等のような団体への直接の規制は、行うこととされておらず、指定については、一応3年間の有効期限を限ってなされ、また、指定に当たっては、暴力団しか有しない団体的特徴を法文上で明示し、対象の範囲の拡大をなくすとともに審査専門委員制度(法27条)と不服申立制度(法26条)を設けて暴力団の規定の趣旨に逸脱した指定がされないように配慮がされている上、直接には指定暴力団の構成員の具体的な暴力的要求行為が規制されることになっており」、「暴対法による規制の目的は、公共の福祉の観点からのものであり、一応の合理性がある制度ということができ」、憲法21条1項に違反しない、とする判決がある(福岡地判平成7年3月28日 判例タイムズ894号92頁)。

〈2〉同法によって禁止される具体的な行為を例示すると、次のようなものがある。

    口止め料を要求する行為

    寄付金や賛助金等を要求する行為

    下請参入等を要求する行為

    縄張り内の営業者に対して「みかじめ料」を要求する行為

    縄張り内の営業者に対して用心棒代等を要求する行為

    利息制限法に違反する高金利の債権を取り立てる行為

    不当な方法で債権を取り立てる行為 ・・・・・・・・

【課題11】

      (20**年度 財産法2 定期試験問題)

  以下の【設例】につき、下記の【設問1ないし4】について答えなさい。

 【設例】

  (1)2006年の春に夫に先立たれ仙台市内で一人生活をしてきたAは、傘寿を迎えてほどない2015年1月半ば、亡夫より相続した時価2000万円ほどの甲土地を、近くに住む姪Bに贈与した。判断能力はしっかりしているものの体力が落ちたため炊事・洗濯などがままならなくなったAは、これまでも東京に住むAの長男・二男に代わって何かと世話をしてくれたB夫婦に、もう老い先長くはなかろうが、老人ホームなどへの入居あるいは死亡によって必要でなくなるまで、日常生活につきこれまでのようにいろいろと助けてほしいと頼み、Bらもこれを承知しての贈与であった。なお、この契約に際してはAの長男も立ち会っており、生活介助というBの負担内容も具体的に明記された贈与契約書が作られている。この書面は、契約書などとは水くさいという話もあるなかで、B夫婦の要望によって作られたものであった。

  (2)本件贈与契約締結後直ちに甲土地の所有権移転登記そして引渡しを受けたBは、2015年7月末に、仲介業者の紹介により、これを事業用定期借地として、地代月額3万円、存続期間20年で、適式にCに賃貸した。直ちに引渡しを受けたCは、同年8月半ばには郊外型書店営業用建物の建築に着手した。ところが、これと相前後して、この土地に隣接する乙土地を所有し自動車などの修理・解体・販売業を行うDが、境界線を大幅に越えて甲土地上に廃車車両・部品などを置くなどしてきた。Cはこれらを撤去するよう求めたが、Dはそれに応じようとしなかった。CはBに善処方を求めたが、Bも何もしようとしない。こんな事情にあって建築工事はやや遅延したが、同年12月末になんとか計画どおり建物を竣工し、請負報酬代金も支払われて、C所有名義の保存登記がなされるに至っている。しかし、甲土地にはDの廃車車両などが残置されている。

  (3)ところで、Bは、本件贈与契約を結んでから1年ほどはAの生活介助をしたのであるが、2016年3月はじめ頃からなぜか全くこれをしないようになってしまった。Aの話しでこれを知ったAの長男が、Aの代わりに、Bに対し、話しが違うではないか、炊事・洗濯などの介助を約束どおりしてほしいと何度か求めたが、Bは一向にこれに応じようとしなかった。そこで、2016年5月末に、Aの長男は、Aと相談の上、Aに代わり、この「贈与をなかったことにしてもらう」、とBに対して述べた。

                                    ※ なお、現在は2016年6月末である。

       

 【設問】

  1 Aは、本件贈与契約を「なかったことにし」たことをふまえ、Bに対して、贈与を原因とする所有権移転登記の抹消を求めたい。この請求は、認められるか(20点)。  

 

  2 この請求が認められるとして、AはBに対し介助を受けたことにかかりなんらかの負担をしなくてもよいか。また、Bが支払ってきた公租公課、BがCから受領してきた地代は、どう扱われることになるか(25点)。

 

  3 本件贈与契約が「なかったこと」とされた場合、Cはこれまで同様に甲土地を利用できるか。できるとしてCと誰との契約関係とみることになるか(20点)。

 

  4 Cは、甲土地を不法占拠しているDに対して、妨害排除、損害賠償を求めることができるか(25点)。                         

 

 

                  

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