東京経済大学ビジネス法入門・企業法基礎 講義資料 2
1 定期試験問題過去問(例)
これまでの試験問題例を示します。
前期(ビジネス法入門a・企業法基礎a)
A)自動車による人身事故が起こった場合、どのような法律が関わってくるか。行政責任、刑事責任、民事責任という語を用いつつ、説明しなさい。
B)企業活動においてなぜ法規範について関心をもたなければならないかについて、企業に法務部という部署が設けられるようになっているということ、「コンプライアンス」ということに言及しつつ、説明してください。
C)社会規範にはどのようなものがあるか。そのなかで、法規範はどのような位置を占めるか説明しなさい。
D)規範は「行動規範」および「評価規範」として機能するということについて、説明しなさい。
E)法の適用による民事紛争の解決について、「事実認定」、「包摂判断」という言葉を用いつつ説明してください。
F)法規範は、「法律」だけでなく、他の形式においても存在する。これを法源という言葉を使いつつ説明しなさい。
後期(ビジネス法入門b・企業法基礎b)
A)権利の主体である自然人と法人について学んだことを述べてください。
B) 物権の客体としての物には不動産と動産とがあります。これらの意味を説明したのち、法的な扱いの違いについて知るところを述べてください。
C)企業取引は契約によって行われるが、契約はどのようにして成立するか、諾成契約・要物契約という語を用いつつ説明してください。
D)契約自由の原則ということについて説明してください。
E)法律行為における「意思主義と表示主義」について説明してください。
F)法規定に反する契約の効力について、「任意規定」、「強行規定」という概念を用いつつ、説明してください。
G)「代理による契約」によって本人に効果が帰属するためにはどのような要件が整っていなければならないか、すなわち「代理の要件」について、述べてください。
H)契約はどのような場合に「無効となり、あるいは、取り消すことができる」とされているかを論じてください。
I) 契約が「無効である」とはどういうことか説明してください。
J)土地売買契約を例に、「契約が成立する」ことによって各当事者がどのような義務を負うことになるかを具体的に論じてください。
K)契約が「有効である」場合どのような効力をもつか、「マンション売買契約」を例に論じてください。
M)契約が「有効である」場合どのような効力をもつか、「建物賃貸借契約」を例に論じてください。
N)双務契約に特徴的な効力である「同時履行の抗弁権」と「危険負担」について説明 してください。
O) 契約違反が生じた場合の救済方法について、履行強制・契約解除・損害賠償という言葉を用いつつ説明してください。
P) 事業にかかわり会社の「不法行為責任」が問題となるのはどのような場合であるか。事実的不法行為・取引的不法行為という言葉を用いつつ説明してください。
2 前期配布資料 法の解釈について
法律の解釈
法の解釈という問題
解釈の必要性―包摂判断の前提としての解釈
文言の多義性・抽象性、創造的法解釈
解釈の性質
規範・条文の意味を理解することであるといわれているが、
その性質は、認識ではなくて価値判断(政策決定)である
すなわち、法律の文理・論理に拘束されつつ、その法律によってどのような利益をどのような利益よりも保護するかという観点から意味を与える(価値判断する)ことである
解釈の理念―法的安定性と具体的妥当性
解釈の方法 ← 法解釈論争
文理解釈・論理解釈・目的解釈
歴史的解釈(立法者意思解釈)・客観的解釈(法律意思解釈)の対立
解釈の技術 拡大解釈・縮小解釈、類推解釈・反対解釈
資料 制定法解釈の技術
1縮小解釈(法文の意味やその文字を縮小する解釈)の例
夫婦間の契約は、婚姻中いつでも、履行後でも何の理由もなしに取り消すことができるものとされる(民法754条)。しかし、判例によれば、婚姻が実質的に破綻している場合には、本条による取消は制限されるものと解している(最判昭和42・22民集21巻1号88頁)。
2拡張解釈(法文やその文字の意味を拡張する解釈)の例
他人の生命を害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては精神的損害の賠償をする義務を負うものとされる(民法711条)。ここにいう配偶者には、内縁の妻も含まれると解される。(しかし、内縁の妻に相続までは認めない)
3類推解釈(法文の字句をどう広げてもそこまでは入らないものに対して規定の精神からいってそこまで含ませるべきであるとしてそれに適用する解釈)の例
右の条文につき、右条の文言に該当しなくとも、被害者との間にこれらと同視しうる身分関係が存し、被害者の死亡によって甚大な精神的損害を受けた者は、同条の類推適用によって加害者に対し直接に固有の慰謝料を請求することができる−最判昭和49・12・17民集28巻10号2040頁―死亡した妻の夫の妹(身体障害者)であってその庇護のもとに生活を継続していた場合―)。
過失相殺規定(722条2項)によって、損害賠償範囲の決定につき、被害者の体質的・心因的素因が斟酌されることがある(最判平成4・6・25民集46巻4号400頁―交通事故によって死亡した被害者がその事故前に一酸化炭素中毒に罹患していた場合において、これを斟酌して、損害の50パーセントを減額するのが相当であるとした例)
4反対解釈(規定にあげられていないものはそれとは逆の扱いを受けるとする解釈)の例
第三者が欺罔行為をした場合については、相手方がその事実を知っている場合に限って表意者は意思表示を取り消すことができるものとされている(民法96条2項)が、第三者が強迫をした場合についてはとくに規定されていない。そこで、この場合については、詐欺の場合とは反対に、相手方が第三者が強迫をした事実を知っていようがいまいが、強迫に基づくものとしてその意思表示を取り消すことができるものと解釈する
学校事例として
公園入口に示されている、「車馬入るべからず」という立て札につきどう解釈するか。
乳母車、車椅子、牛、犬は入ってよいか
公園になぜ「車馬」がはいるといけないか
公園管理者はなぜこのようなルールを設けたか? → 立法趣旨
公園はゆっくり散歩をするための施設であるから、車はスピードがでて歩く人にとって危険であり、馬は駆けたり、いなないたりして人を怖がらせる危険、糞で汚す危険があるから、このようなものが入らないようにこのルールを設けた
スピードのでない乳母車(縮小解釈)や車椅子(文理解釈)はよいことになる
電動車いすはどうか、自転車はどうか
ローラースケートをはいたひとはどうか
牛や犬はいけないことになる(拡張解釈)
法令用語の常識 林修三「法令用語の常識」、「法角釈の常識」参照
AまたはB、A、BまたはC、AもしくはBまたはC
A及びB、A、B及びC、A並びにB及びC(〔A十(B十C)〕)
「とき」と「時」
みなす、推定す
適用、準用
☆以上についての参考文献としては、五十嵐清「法学入門」(一粒社)、加藤=伊藤「現 代法学入門」(有斐閣)、田中英夫「実定法学入門」(東京大学出版会)、田中成明「法学入門」(有斐閣)など。これらのうち、田中「法学入門」を読むことを強く薦める。
3 ビジネス法務教材・参考文献 2016
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小島ほか編『新訂版 企業法務入門』(青林書院)
大矢息生『会社法規部』(学陽書房、1978)
出川一雄『企業法務の構造と展開』(法令総合出版、1986)
大矢息生=小林俊夫『会社法務部の研究』(経済界、1988)
大矢息生『企業法務総論 : 企業法務の基礎』(税務経理協会、1996)
大矢息生=村山恭二=竹内規浩『リーガルリスク・マネージメントと戦略法務』(税務経理協会、1998)
企業法務研究班『企業法務の機能と組織』(関西大学法学研究所研究叢書、1995)
永田眞三郎「企業法務の問題状況」
飯村佳夫「企業法務と弁護士の役割」
商事法務研究会『会社法務部 第八次実態調査の分析報告』(2001)
竹内ほか「これからの企業法務ーその現状と課題」ジュリスト857号10頁以下(1986)
水澤ほか「企業法務と弁護士」自由と正義38巻4号58頁以下
北川俊光「企業法務」法学教室130号45頁(1991)
堀龍兒「法的リスクマネジメントと企業法務部の役割」法学セミナー35巻3号60頁以下
三宅道昭「二一世紀を迎えた企業法務の役割と課題」商事法務1583号68頁以下(2001)
小川幸士「企業法務小論」帝塚山法学6号(2002)
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加藤一郎編『最新ビジネス法務入門 新訂版』(実教出版、2010)
『経済活動と法 新訂版』(実教出版高校教科書、2009)
1章 経済社会と法、2章 権利・義務と財産権、3章 財産権と契約そしてその保護
4章 企業活動に関する法、5章 社会生活に関する法、6章 紛争の予防と解決
山川一陽=根田正樹『ビジネス法務の基礎知識 第2版』(弘文堂、2012)
総論―ビジネスと法、コンプライアンスとリスク管理、企業の社会的責任と企業倫理、ビジネスとリーガルリスク(企業犯罪など)
企業組織―株主と株式、取締役、執行役、監査役、資金調達
ビジネスと企業提携―親子会社、会社分割など、資本提携(M&Aを含む)
営業活動の補助者―フランチャイズ、企業と従業員―労働法、解雇と法
企業取引―ビジネスと税、電子商取引、ビジネスと消費者紛争
債権回収、債務者の倒産と対応、国際法務―WTOと国際通商問題
ビジネスと知財法―知財法の意義と体系、特許法・著作権とは、他の主要な知財権
滝川宣信『実践企業法務入門 第5版』(民事法研究会、2011)
第1章 法律知識の基礎、第2章 会社の設立、第3章 株式会社のしくみ
第4章 契約、第5章 公正な取引、第6章 手形・小切手、第7章 債権保全と回収
第8章 取引先の倒産、第9章 製造物責任、第10章 営業秘密
第11章 インサイダー取引規制
高橋孝志『実例から身につく企業・ビジネス法務』(青林書院、2004)
1 会社の仕組みと運営の必須法律知識
2 企業取引の必須法律知識(不動産・動産の対抗、債権保全と各種担保権、保証人の必要性、代位・詐害、債権譲渡・消滅、取引害権利の発生、消滅、知的所有権)
3 営業活動における必須法律知識(有価証券の特性、取引・対象物件の各瑕疵
募集・販売・金融商品と特別法、債権保全・債券差押・企業再生)
4 会社のトラブルと訴訟・執行の必須法律知識(民事・行政訴訟、判決、債務名義・民事執行手続)
上谷 佳宏=東町法律事務所『実践ビジネス法務―体験してみる企業法務の最前線』
(関西学院大学出版会、2007)
第1章 企業法務概観・知的財産関係法概観
第2章 契約法務
第3章 不正競争防止法(営業秘密)・訴訟法務
第4章 特許法・示談交渉法務
第5章 独占禁止法・法律相談法務(意見書作成)
第6章 会社法(内部統制システム)・法的システム構築法務
龍田節=杉浦一郎『企業法入門 第4版』(悠々社、2008)
企業と取引、商品の流通、金の流れと決済、企業の組織、企業のグループ
企業の資金、投資と利殖、企業の失敗、企業と責任、権利の乗物―紙からネットへ
知的財産権と企業、競争と独占、紛争解決と政府規制、国際社会と企業
企業法の生い立ち
森田章『現代企業法入門 第3版』
第1章 近代市民法原理と国家の干渉、第2章 法人としての株式会社
第3章 コーポレート・ガバナンス、第4章 企業の社会的責任
第5章 コーポレート・ファイナンス、第6章 資本市場と規制
堀龍兒ほか『会社法務入門<第4版>』 (日経文庫)
1 会社と法律、2 法務部の組織と役割、3 組織に関する法律、4 人事・労務に関する法律、5 財産に関する法律、6 取引関係の法律、7 債権管理に関する法律、8 紛争処理
志村ほか『現代社会と企業法(第2版)』
山本・高木・久保田「ビジネス法学入門[改訂版]」(嵯峨野書院、1998)
高任和夫『商社審査部25時』(講談社文庫、2005)